中日ドラゴンズ研究室

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盗塁阻止率の難点を考える

2020年シーズン、木下拓哉の盗塁阻止率はリーグトップの.455だった。盗塁阻止率は、一般的には捕手の指標として用いられ、肩の強さや送球の正確性を評価することが多い。しかし、“盗塁阻止率が5割であることは、走者の盗塁を半分刺したことである”と、一概には言えない。今回のブログ記事では、中日ファンという立場を離れて、一般のプロ野球ファンとして盗塁阻止率の難点について触れたい。

 

盗塁について

盗塁阻止率について考える前に、盗塁について確認する。ここで、“盗塁とは何か”ということを敢えて触れる必要はないだろうから、特に注意すべき点をいくつかピックアップする。以下のことは、野球を知っている方ならば、当たり前のことがほとんどだろう。

 

例1
走者1塁の場面にて、走者が盗塁を試みた際に、投手の投球により四死球となれば、1塁走者に盗塁は記録されない。加えて、四死球により安全進塁権が与えられているケース(1,2塁や満塁)でも同様。

 

例2
盗塁を試みた際、そのときの投手の投球が暴投になったり、捕手が捕球や送球を誤ったりしたときでも、盗塁は記録される。例えば、盗塁を刺そうとした捕手の送球が大きく逸れた場合は、失策は記録されず、盗塁が記録される。ただし、送球ミスによって更なる塁に走者が進んだ場合は、捕手の失策が追加して記録される。なお、投手暴投(ワイルドピッチ)、捕手後逸(パスボール)によってスタートを切った進塁は、盗塁ではない。

 

例3
投手の牽制によって挟殺プレーとなった場合、走者がアウトになるケースによって、「牽制死」か「盗塁刺」が記録される。進塁方向でアウトになれば「盗塁刺」だが、帰塁方向でアウトになれば「牽制死」となる。なお、「牽制死」が記録されれば、走者の盗塁成功率は変動しない。

 

例4
守備側が走者を牽制する姿勢を見せなかったり、走者が盗塁を試みても捕手が刺す動きを見せなかったりと、守備側が盗塁に関して無関心であった場合は、盗塁は記録されない。同点で迎えたサヨナラの場面、走者1,3塁のケースにて、1塁走者が盗塁を試みた場合などで、よく適用される。

 

なお、盗塁を記録するか否かの判断は、公式記録員によって下される。特に例4はケースバイケース。

 

盗塁阻止率とは

盗塁阻止率は、各捕手に対して、

 「盗塁刺」÷「盗塁企図数」

で与えられる。ここで表記したように、正確には、「盗塁死」ではなく「盗塁刺」という。ここでの「盗塁刺」や「盗塁企図数」は走者に対する数字であることに注意。

 

盗塁阻止率の難点

やっと本題に入るようだが、ここまでの内容を理解した上で、盗塁阻止率の難点を考えてほしい。まず、「盗塁阻止率」は捕手の指標である。一方で、「盗塁刺」や「盗塁企図数」はあくまで走者の指標。盗塁は“捕手が関与する走者の指標”というべきかもしれないが、盗塁阻止率の算出には、走者の指標を用いている。この違和感に引っ掛かっている方も少なからずいるだろう。ただ、これだけの理由で盗塁阻止率を全否定することもおかしい。なぜなら、盗塁のほとんどが捕手の送球と走者の技術・能力での対決であると考えた方が手っ取り早いからである。

とはいえ、盗塁阻止のために、捕手に頼りきりにするという考えもよくない。盗塁を阻止するためには、投手の牽制やクイック、野手の連携も含めて作戦を実行させるものだ。里崎智也さんは、とある記事の中で「そもそも盗塁っていうのは、投手と捕手の共同作業で阻止するもの」と口にしており、記事内で新たに提言している。詳細は下のネット記事を参照してほしい。

 

参考
「盗塁阻止を表す新しい指数を作れ/里崎智也」、日刊スポーツ
https://www.nikkansports.com/baseball/news/202005170000049.html

 

また、盗塁阻止率を受け取るサイドとしても難点がある。例えば、盗塁阻止率0割の捕手は、良くない選手という評価になるのか。“盗塁を刺したことがない”という事実には変わりないが、盗塁阻止率0割の理由は、能力が低いこと以外に、次のことが考えられる。

*バッテリーが盗塁を企図させないように警戒している
*捕手の評価が高く、走者が警戒している

特殊な例かもしれないが、盗塁阻止率を過信することは間違っているのではないか。

 

さいごに

念のため言っておくと、私は盗塁阻止率という指標を否定するつもりはなく、今後も捕手の指標として捉えてプロ野球を楽しむつもりだ。ただ、理解してほしいのは、盗塁阻止率だけで捕手の肩力や送球の正確さを評価するのは少し違うということ。野球の中に出てくる指標には、これ以外にも注意が必要なものがある。例えば、出塁率得点圏打率防御率(自責点)といったものは、本質を理解して違った視点で見れば、捉え方が変わるだろう。“だから何だ”と言ってしまえばそれまでだが、プロ野球開幕に先立ち、野球データについて考えてみると面白い見方ができるかもしれない。